ある国の王に一人の娘がいました。思いのほかの醜女で、容姿も劣り、二目とは見られない女性でありました。
さて、国王は娘も年頃になったので適当な婿をと探してみましたが、誰も名乗り出る者はいませんでした。誰でもというわけにはいかず、国王は困り果てていましたが、ようやくある国の長者の息子に白羽の矢が立ちました。
国王はいやがる青年をなんとか説得し、多くの財物を与えるなど様々な良い条件をつけてようやくのこと話をまとめました。青年の気持ちが変わらないうちにと、あれよあれよという間に二人は結ばれてしまいました。
結婚の話を聞いた青年の親戚、友人、知人など多くの人々がお祝いに駆けつけました。彼らは口々に「名にし負う国王の王女、さぞかし玉のような麗しいお方でございましょう」「ぜひ早くお目にかかりたいものだ」などと青年を困らせるのでありました。彼は「私の妻は何と言っても王女でありますから、突然来てもらっても容易にはお目見えできません。またの機会にいたしましょう」とその場はどうにか切り抜けました。
しかし、親戚の者たちは納得せず、彼の家に押しかけて来ましたが、彼は断ることが出来ず、やむを得ず「あと10日待ってください」と言ってしまいました。押しかけてきた者たちは約束を破ったら多額の財宝を貰うことを条件に帰っていきました。
彼は部屋に鍵を掛けて妻を閉じ込めました。ついに約束の日がやって来ました。いろんなご馳走や酒を準備し、また多額の財宝も用意して彼はみんなに謝りました。一同の者は「あなたの妻は貴い方であるから、奥深くしまい込んで私どもごときには見せられないのでしょう」と皮肉を交えて言いました。宴が始まり彼は人々のもてなしに努めました。彼が酔って眠った頃、一同は鍵を盗んでわれ先にと妻の部屋に押しかけて行きました。
ところが、一同の見た彼女の姿はまったく天女そのものでありました。みんな驚き、思わずその場にひれ伏しました。酔いから覚めた青年が慌てて部屋に入るや否や、彼も自分の妻が別人のごとく絶世の美女になっているのを見て腰を抜かしました。
妻は部屋に閉じ込められているあいだ、自分の容姿を嘆き、「ああ、自分の夫にかくも多くの恥をかかせ、嘘をつかせ、そのうえ多額の財宝まで出させるとは。いっそう死んでしまったほうがよいのでは・・・」と思い、首を吊ろうとしていました。
突然目の前にお釈迦さまが現れました。「おまえの、夫を想う心は人一倍である。なのに何の因果で醜い容貌の女に生まれて来たことか。かくなる上は仏さまを拝し、供養して、清浄な心で帰依しなさい」と仰せられました。彼女は一心に仏さまを礼拝したところ、見る見るうちにふくよかな顔立ちになり、その姿はまるで天女のごとくになりました。
この話はこころの持ち方を説いています。たとえばお腹が痛いときは顔をしかめ、胸が悪いときは青白い顔になります。また、いつも腹を立てていれば怖い顔になります。欲望をほしいままにしていればいやらしい顔に変わります。愚痴ばかり言っていると口が尖ってきます。嘘ばかり言っていると目が定まりません。
彼女は10日間のあいだ一心に仏さまを拝み、我を捨て、清浄なこころを持つことによって、自然に穏やかで、温かさのある、まるで天女のような女性に生まれ変わったのです。
「目は口ほどにものを言い」ということわざがありますが、顔付きやその表情はその人のこころをよく表します。 みなさん、思いやりのある、優しく清らかなこころを持ちましょう。そうすればどんな人であっても美男美女になること請け合いです。
十輪院 住職 橋本純信
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