南都 十輪院 奈良市十輪院町27 TEL.0742-26-6635

こころの便り

新年のご挨拶

令和3年1月3日

謹んで新年のご挨拶を申し上げますとともに、昨年も当山への多大なご理解とお支えをいただきましたこと、厚く御礼申し上げます。
また昨年も、多くの新しいご縁を頂戴し、多くのお別れに立ち会わせていただきました。頂いたご縁一つひとつが十輪院というお寺の存在意義と、そこで修行する僧侶の使命を明確にするものであると考えています。また、すべてのお別れが永遠のお別れではなく、再会を前提とした一時的なお別れであって、ご供養という名の新たなコミュニケーションの始まりであることを大切に、精進していく所存です。


価値観や生活様式に大きな変容を求められる時代に新住職を拝命し、たくさんのお声を頂戴しながらお寺の行事等にも変更を生じさせざるを得ない状況ですが、古のお智慧を活かす方法を惟るありがたい機会であると感じています。


日常生活にマスクが欠かせなくなった当初、マスクを着用してお葬儀や法事で読経することには、違和感がありました。約1時間にも及ぶ読経では、当時の不織布マスクは息苦しく不便に感じられました。しかし現在は少し呼吸が楽なマスクが手に入ることもあり、マスクを着用しての読経に不便を感じることはありません。却って「マスクを着用しなければならない環境でも、敢えて声に出して読経する」という行動をきっかけに、改めて「読経」という行為に込められた意味とお智慧を私なりに考えることができました。


かつて経験のない難局に直面し、何が正解かわからない状態の中で、自分が正しいと思う考えに辿り着いたとしても、それを声を大にしては言いにくいこともあるかと思います。「こちらを立てればあちらが立たず、あちらを立てればこちらが立たず」といったようにです。しかし、お経には世の中の真理(法則)、皆が心安らかに暮らしていく方法、仏様のご利益(人間の苦しみを取り除く力)などについて書かれている訳ですから、いつの時代も何物にも憚ることなく、声を大にして言える内容だけが書かれています。そしてそれを読経する声には、その言葉通りの世界を作り上げる、僅かばかりの力が宿っているように感じるのです。「ありがとう」という言葉が、その場に「有り難い」出来事を生起させるようにです。


百年単位で時代を振り返れば、私たちの時代は間違いなく暮らしやすく、ありがたい方向に進んでいます。それを先人たちの祈りの力の積み重ねと捉えれば、我々もその祈りを止めることはできません。数百年後、私たちには不可能なくらいに人々が優しく思いやりをもって支え合い、誰も心を痛めずに暮らしているところをご想像いただけるでしょうか。ご先祖様方は、現在の私たちの暮らしさえも想像すらできなかった「有り難い」景色としてご覧になられていると思います。そのような未来の景色を作り上げるために、「読経」をするのではないかと思う今日この頃です。たとえマスクを付けなければならずとも、たとえそれが来世から見る景色になろうともです。


十輪院では、毎朝の勤行を公開しております。「読経」はどなたでも簡単にしていただける善行ですが、お一人でご自宅で始めていただくには、腰の重い部分もあるかと存じます。お時間にご都合を付けていただける機会がございましたら、是非ご参拝ください。皆様とご一緒に読経させていただきます。


【朝勤行】毎朝8:30~9:20頃 於:十輪院本堂
※8:00~作務(境内のお掃除)もご一緒に体験していただけます。
※月曜日は閉門の為、ご参拝いただけません(僧侶のみで勤行)。(月曜が祝日の場合は月曜開門、翌火曜閉門となります)


皆様にとって「有り難い」1年となりますよう、ご祈念申し上げます。


十輪院 住職 橋本昌大

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