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こころの便り
2016/08/14
家に帰れない先祖たち

日本人は昔から先祖を大切にする民族です。また先祖の霊に畏怖の念を抱いたり、守護神のように崇めたりするのも日本人の特徴といえます。
特にお盆の諸行事は先祖の霊を慰めるものとして、今でも各地で盛んに行われています。

墓参りはもちろんですが、七夕(たなばた)がそうであり、盆おどりも、花火も、灯ろう流しも夏の一大行事として根付いています。しかし、それらの諸行事が先祖の慰霊のものであることをすべての人が理解しているとは限りません。むしろ知らない人々が増えてきているようです。

とくに七夕などは天の川を挟んで彦星と織姫星が一年に一度出会う時として、ロマンチックな印象の行事になっています。さらに短冊に願い事を書いて、笹に掛けると願いが成就するとされ慰霊の面影はまったくありません。

七夕は、棚と幡のことで、7日の夕べに先祖を迎える棚を作り、目印の幡を立てることに由来しています。短冊の原型です。七夕の行事とお盆の行事とがひと月ずれている地域では、慰霊の感覚はまったくなくなっています。仙台や安城、阿佐ヶ谷の七夕祭りなどもテレビなどメディアの報道では日本のお祭りとして説明するだけで、お盆の行事としての解説は皆無に等しい状態です。

先祖を家に迎え入れる準備ができたら、墓参りをし、先祖を迎えに行きます(迎え火)。先祖は行燈の光や線香の煙に導かれて懐かしい我が家に帰ります。15日まで自宅で接待を受け、家族とともに過ごします。夜にはご詠歌を唱えて先祖の追善を行い、お盆が終われば再びお墓までお送りします(送り火)。

ところが最近はお盆の期間中なら墓参りだけをしておけばいいと考える人が増えてきました。家に向かえ入れることはなく、家族と共に過ごすこともなく、墓で先祖に対面し、感謝の意を伝えるだけで済ましているようです。マスメディアの報道を見ていると、お盆の行事として墓参りだけを強調し、家に先祖を迎えるという本来のお盆の意味をまったく伝えようとはしません。これは、報道関係者の無知によるものと思います。ただ浄土真宗では、先祖が家に帰るという考え方はありませんので、お盆という習慣はありません。

このような報道が一般化してしまい、本来のお盆の意味合いが忘れ去られてしまっています。私の寺でもかつては墓参りは8月7日頃に集中し、12日~15日は寺内は閑散としていました。ところが今では、15日まで墓参りが続きます。


十輪院 住職 橋本純信