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こころの便り
2012/01/01
いろはにほへと

昨年は忘れられない大きな出来事が起こった年でした。今年も波乱含みの年になるかも知れません。日本だけでなく世界中が大きなうねりの中に漂うのでしょうか?

 

世界は目まぐるしく移り変わり、10年前は大昔のような感じさえします。経済至上主義の大号令のもと急速に合理化が進んだ結果、ついに行き詰まりが見えてきたような気がします。

 

昨年秋ブータンの若き、そして爽やかな国王夫妻が来日されたのを機に、GNH(Gross National Happiness 国民総幸福量)が注目されました。道路には信号機が一つもなく、まだまだ発展途上の国でありながら、国民は心豊かな生活をしているといいます。この根底には仏教精神が広がっていて、それが多いに影響しているのでしょう。

 

日本は経済的に大きく発展しましたが、古くから生活に根付いていた仏教精神は置き去りにされてきました。うわべだけの欧米文化に傾倒し、戦後は政教分離の名分で敢えて宗教を避けてきました。また日本の伝統や習慣も欧米文化のそれにかき消されてしまったかの感があります。果たして今の日本はブータンより幸せと言えるのでしょうか?

 

かつてわが国では「いろは歌」なるものが五十音の代わりに用いられていました。

 

いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ

うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑいもせす

 

いま、この「いろは歌」を最後まで言える人はどのくらいいるのでしょうか? 私の感覚では、概ね40才代以下の人は無理なようです。しかし、「いろはにほへと」の47文字の配列には人生の指針が示されています。

 

色は匂えど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならん

有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔いもせず

 

つまり、

 

色美しく香りのいい花も いつかはやがて散り色香がなくなってしまう

すべての生き物は誰ひとりとして 永遠に生き続けられるものではない

奥山のような迷いの多いこの世界を いま悟りを開いて超越したならば

現世は儚(はかな)い夢であることを知り現象の世界を真実の世界と見間違えることはない

 

という意味で、世の無常観を仏教の教えで解りやすく説き明かしています。

 

「いろは歌」は平安時代に作られ、1000年にわたりひろく生活の中で使われてきました。昔人(せきじん)はここに説かれている意味を幼いころから教えられ、真の幸福とはどのようなものであるかを常に考えさせられて来たのだと思います。

 

そのほか仏教の教えには、生活に、あるいは人生に役立つ内容が溢れています。混沌とする今の世の中で、これからは仏教精神の役割が大きくなっていくように思います。 (写真は奈良市指定文化財 釈迦誕生仏-白鳳時代 当山藏)

十輪院 住職 橋本純信