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こころの便り
2010/02/01
首相施政方針演説

 

1月29日の鳩山首相の施政方針演説の全文を読んだ。脚本家、演出家といわれる人たちの手によって練り上げられたものらしい。

 

「いのち」という言葉が31回(タイトルも含めて)も使われている。平成22年度予算は「いのちを守る予算」というのだそうだ。 「生まれてくるいのち」「育ちゆくいのち」「働くいのち」「災害貧困病気から守るいのち」「紛争地雷から守るいのち」「いのちのための成長」「いのちと文化の共同体」といった言葉が連なっている。 もちろんそれらは大事ないのちであるが、私などは「いのちを守る」と聞いて、すぐに思い浮かぶのは「自殺」のことだ。

 

演説の中で、自殺問題は「いのちを守る社会の基盤として、自殺対策を強化するとともに、消防と医療の連携などにより、救急救命体制を充実させます」という箇所で触れられているにすぎない。見落としてしまいそうな表現の仕方だ。

 

昨年は自殺者が過去5番目に多い3万2753人だった。98年から連続12年、3万人を超えている。 最新のWHOの資料によると、自殺率では日本は世界第6位で以前より順位が上がっている。1位から5位は自然環境が厳しく、また政変が起こりやすい地域で、旧ソビエト連邦の共産圏にあった国々である。フランス19位、ドイツ36位、カナダ41位、アメリカ43位、英国に至っては67位だ。先進国では日本が突出して自殺率が高い。異常と言わざるをえない。 原因の大きな理由の一つは、日本人の宗教感覚にあると思うが、今はその点に触れない。 「いのち」「いのち」と言うならば、この問題をもっと大きく、重大なこととして捉えてもらわないと減少させる解決策が出てこない。

 

内閣府には、自殺対策推進会議というのがあるが、構成員の中には宗教関係者がいない。「いのち」は宗教と密接な関係があり、また自殺に関しても精神的な拠り所として、宗教は大きな役割を持つ。 政教分離の原則が過敏に扱われ、宗教は別の世界のことのように考えられている。人のいのちを救い、守り、生きる喜びを与えるのが宗教である。政治が宗教を疎かにすると国は滅びる。

 

首相はマハトマ・ガンジーの「七つの社会的大罪」を引き合いに出した。彼はインドの偉大な政治指導者であり、宗教家でもある。首相は何度もガンジーの言葉を引用して「いのち」を語ったが、ガンジーの精神の底流にある宗教心は全く感じられない。うわべだけの借用に過ぎない内容だ。 また首相は「七つの大罪」の7番目の罪を「犠牲なき宗教」と言った。よくわからない表現で、宗教は犠牲を伴わなければならないのかということになる。英語では「Worship without sacrifice」で、一般には「献身なき信仰」と訳されている。 私には首相の施政方針演説は脚本家と演出家によって作られたドラマのセリフのように聞こえた。

十輪院 住職 橋本純信